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□ 静留×なつき □

笑顔4

すいません



 今、静留は幸せだった。
 だが、この幸せがいつまでも続くのかが不安で不安で、泣きたくなることもある。
 今はこうしてそばに居てくれるが、この関係が不自然かもしれないとなつきが感じればそこで終わってしまうかもしれない危うい関係。
 でも今は信じるしかない。
 一本の細い藁に縋るかのように、静留はなつきを信じることで心のバランスを保っていた。
 いつか千切れるかもしれないという不安と戦いながら・・・。

  ☆

「なぁなつき?」
「うん?」
 目の前で美味しそうに静留の用意した料理を平らげていくなつきを、嬉しそうに目を細めて見つめる。
「美味しいどすか?」
「あぁ、美味い」
「そうどすか、そらよかった」
「わたしは・・・今まで手料理とかあんまり食べなかったからその・・・こういう人の想いのこもった料理は本当に美味しいと思うし、母親とさえあまり食事を共にすることが出来なかったからこうやって誰かが一緒にご飯食べてくれるのも・・・嬉しいんだ」
 言って、照れ隠しのようにもぐもぐと、まるでハムスターのように頬におかずを詰め込み
、それをごっきゅんと無理矢理飲み込む。
「ちゃんと噛まんとあきまへんぇ」
「うっ・・・」
「ほらゆわんことやないやろ?」
 静留は呆れて喉を詰まらせたなつきにお茶を差し出しながらも、心の中は満たされていた。なつきのそばに居てもいいんだと、そう思ってもいいんだと思うと嬉しくて泣きそうになる。
「料理は逃げませんよって落ち着いて食べ、あんたの為やったらうちなんぼでもこしらえるさかいに」
「うん」
「うちかてなお母はん亡くなってからは、お父はん忙しい人でしたしほとんど一人でしたんよ。料理かてお手伝いさんが作ってくれたもんやったさかいに、こうやって誰かとうちの作ったご飯食べるのは楽しおす」
「そうか・・・」
 しばしの沈黙。
「うちな、なつき」
 先に沈黙を破ったのは静留だった。
「ん?」
「ちっさい頃お母はんに言われたことあるんどす」
「何を?」
「静ちゃんはえぇお嫁さんなるわぁって」
「・・・ん」
 別に自分のことを言われたわけでもないのに、かぁっとなつきの体が火照る。
 ドクンっとその言葉に反応する鼓動。
「うち、それが嬉しぃて嬉しぃてしょぉおまへんでした」
「う、うん」
「好いとる人にうちの手料理を美味しいゆぅて食べてもらいたい、そんな普通の夢を持ってる頃もありましたんぇ。お母はんみたいにいつも好きな人のそばで笑ってたいって。せやけどうちはその・・・結婚とかそういう現実的なことは出来へんってわかった頃からそないな夢は半ば諦めとりました」
 コトンと茶碗を置くと、なつきは視線を落とす。
 それに習うように静留も箸を置いた。
「なつき?」
「あ、うん?」
 眉間にシワを寄せて困ったような、何だか寂しそうな顔を上げたなつきを、静留はやんわりと柔らかな笑顔で迎える。
「おおきにね、なつき」
「え?」
 思いがけない言葉に戸惑うなつきの目が泳ぐ。
「うちの夢を叶えてくれておおきに」
「わ、わたしが・・・か?」
「えぇ、うちはなつきがうちの手料理を美味しいゆぅて食べてくれんのが何より嬉しいんどす」
「そう・・・なのか?」
 何も言わずにただ微笑む静留。
 なつきの頬が益々熟れていく。
「それならば何度でも言ってやるさ」
「ん?」
 かわいく首を傾げてなつきの次の言葉を待つ。
 なつきは肉とじゃがいもを一緒につまむと、あーんっと大きな口をあけた。
「あんっもぐもぐ・・・うん、美味い」
「嬉しいわ、なつきにそうゆぅてもらえんのが一番嬉しい」
 うんうんっと頷き、もぐもぐもぐゴックンと飲み込む。
「ほらぁまたこない口の周り汚して、しょぉない子ぉやねんからなつきは」
 呆れながらも、そんななつきが可愛くて仕方のない静留は笑ってなつきの口の周りを親指でそっと拭う。
「静留」
「ん?」
 静留が笑いかけた瞬間、薄っすらと上気してしまった頬を見られたくなかったのか、視線を逸らしながら言う。
「静留、お前あれだな・・・ちゃんと笑えるようになったんだな」
「・・・え?」
 キョトンと言葉の真意を測りかねたようになつきの横顔を見つめる。
「会ったばかりの頃のお前の印象は、いつも笑ってるヤツだなってカンジだったけどでもよく見てるうちに、コイツ本気で笑ってないなってわかってきたんだ。外面だけというか、場を取り繕うためだけに笑ってたような・・・あんなに色んな人に慕われて、囲まれてそれでもお前が本当に楽しそうに笑ってるとは思えなかったぞわたしには。でも今は・・・」
 シーンと静まる空気。
 なつきの言葉の続きを無言で促す静留。
 しどろもどろになりながらもなつきは必死で言葉を探した。
「えと、その、だな静留・・・お前はわたしといるとそのぉ・・・楽しそうだから、だから一緒にいればいいと思うぞ」
「なつき・・・」
「半分しか叶えてやれない相手ですまない」
 結局うまく伝える言葉が見つからず、わけのわからないことを言ってしまったとしょぼーんと肩を落とすなつきに、静留の背筋がそぞろ立つ。
 何でこの子はこんなかいらしーことゆぅてくれんのやろ?
 むしろうちが巻き込んだ方やのに・・・うちが力づくで手に入れたようなもんやのに・・・何でこの子は自分責めるようなこと言いよるんやろう?
「そないなことありまへん!そないなこと・・・」
 自分がしてきた事を思い出したのか涙が込み上げ、言葉が続けられずに俯く静留になつきは神妙に眉を寄せてテーブルから乗り出すと、顔を覗き込もうと体を傾ける。
「なぁ静留?今度京都に連れて行ってくれないか?」
「え?」
 思いがけない言葉に驚いたのか、やっと顔を上げた静留の目に溜まる涙を親指でそっと拭うと再び席についた。
「墓参りに行こう。お前のお母さんに会いたい」
「ん」
「ちゃんと報告しなきゃだから」
「何をどす?」
「静留はわたしといるから、だから大丈夫だって」
「なつき・・・」
「お前の花嫁姿を見る前に逝ってしまったんだ、せめてお前と・・・お前に出会ったわたしも今は幸せだということくらい報告しとかないとな。天国でお母さんが心配するだろう?それに静留を産んでくれてありがとうって言わないとな」
 瞬間、静留の瞳から再び大粒の涙が零れる。
 滅多なことでは人前で・・・なつきの前でも泣こうとしない静留が、ボロボロと涙をこぼしていた。
 母親のことを思い出して泣いたことなんか一度もなかった。
 別に寂しくなんかないと思い込んできた。
 でも・・・今になって初めて母親がいないことを寂しく思った。
 なつきを一度会わせたかった。
 うちが選んだ人を見て欲しかった。
 えぇ子やねんって自慢したかった。
 そう思うと涙が止まらなかった。
「あんたを好きになってよかった・・・」
「お、おいっ静留!?」
 ガタンと椅子を蹴ると、あたふたと慌ててなつきは今度は静留の横に座りなおす。
 きゅっと静留の肩を抱いた。
 静留はなつきの胸に倒れこむように顔を押し付ける。
 濡れる胸元。
 なつきはよしよしっと大きな子供をあやすように頭をなでてやる。
「よしよし、静留はいい子だぞ」
「そんなこと・・・あらしません・・・なつきが・・・知らんだけや」
 今までの自分の心ない行動で、たくさんの人を傷つけた。
 人を人として扱っていなかった、人の気持ちを踏みにじってばかりいたあの頃の自分。
 そんな自分をいい子だと撫でてくれる手は、ただただ優しかった。
 なつきに出会う前の話とはいえ、静留は後悔していた。
 静留にとって何より怖いのは、なつきに幻滅されることだった。
 なつきに軽蔑されることだった・・・。
「わたしにとっては今の静留が静留であるから好きなんだ。わたしと出会う前の知らない静留のことなんてどうでもいい。わたしを救ってくれたのは、まぎれもなく今の静留なんだからな」
 抱く腕に力がこもる。
「なつき・・・なつ・・・き・・・どこにもいかんとって・・・」
 何度も何度も愛しい人の名前を呼びながら嗚咽をもらす。
「行かないって言ってるだろ」
「ホンマに?」
「あぁ、ホンマだ」
  ぽんぽんと背中を優しくあやすと、なつきはぽつりと呟いた。
「お母さん喜んでくれるかな?」
「何をどすか?」
「お前がその・・・好きになった相手がわたしなんかで・・・」
 静留は一瞬目を丸くするが、次の瞬間、満面の笑顔で答えた。
「当たり前どす、うちのお母はんやで?」
「そうだよな」
 ただ一緒にいたい、一緒にいて欲しい。
 心からそう思える相手がいることを、喜ばないわけがない。
 そういう相手に巡りあえることが幸せなことだと、いつか母が言っていたことがある。
 その言葉の意味を、静留は今になって噛み締めていた。
 共に幸せへの道を歩みたい。
 今、互いの想いはたった一つだけだった。
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Date:2008/08/23
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