Planetarium SS置き場

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□ 静留×なつき □

笑顔2

まだまだ
「藤乃さん」
「え?」
 珍しく取り巻きを連れずに一人で歩いている所を、名前を呼ばれた静留はゆっくりと振り返る。
「藤乃静留さん」
「はい?生徒会長さんがなんぞ御用どすか?」
 声をかけてきたのは、先月の入学式の時に挨拶をしていた風華学園中等部の生徒会長だった。
「ふむ」
 ジロジロと舐めるように上から下まで観察を始めると、一人で何を勝手に納得したのかうんうんとうなずいた。
「生徒会の仕事手伝ってくれないかしら?」
「はい?」
 キョトンと問い返す。
「だぁかぁらぁ、うちの生徒会の手伝いをして欲しいんだけどって言ったの。初めて見た時からチェック入れてたのよね!あなたみたいな優秀な子を逃す手はないもの」
「せやけどそない急にゆわれても」
 普通は選挙があって、それに当選した人間がやるものだろう。
 かなり強引な勧誘に驚きつつも、それでも笑みを絶やさないまま少しは困ってみせるが、そんな静留にはおかまいなしに手首を掴むと、グイグイと引っ張って歩き出した。
「とりあえず生徒会室に案内するわ」
 静留は背後で小さなため息をつくと、引っ張られるままについていくしかなかった。
 そない急かさんでもえぇのに・・・急かされんのは好きやないんどすがなぁ・・・。

  ☆

「座って」
 会長の机の正面にポツンと置かれたパイプイスを勧められる。
 伸ばされた背筋が凛としていて、スキのない印象を与えた。
 小じんまりとした部屋だが、ムダなものもなく片付いている部屋をゆっくりと見渡す。
 彼女の机の上に山と積まれた書類の束以外はキチンと整頓されていた・・・。
 生徒会長の彼女は笑って両手を広げ、歓迎のポーズを取ると
「ようこそ生徒会へ」
 と、もうすっかり決定事項のようにのうのうと言ってのけた。
「ようこそも何も強引に連れてこられただけどす。うちは生徒会なんぞやる気ぃありませんよってこれで失礼させてもらいます」
 ガタンと席を立つと、丁寧に頭を下げて立ち去ろうとする静留を彼女は呼び止めた。
「お願い、藤乃さん。あたしはどうしてもアナタが欲しい」
 これで何人目だろう?公私ともに・・・そして男女ともに中学生の、いやつい先日までは小学生だった静留に向かっても同じことを言う人間は今まで山ほどいた。
 一体自分の何を見て評価をするのか本人としては全く理解が出来なかったが、一番わかりやすいのは入試の成績、そしてこの容姿と妙に大人びた言動の数々だろうとアタリをつけてはいた。
 それだけ理由があれば十分だろうと思われるのかもしれないが、静留にとってはどうでもいいことばかりだった。
 他人に弱みを見せないように、スキを見せないように・・・元々頭も要領も良い静留は常に優秀であった。
 優秀であることが出来た。
 ふぅ~っと大きなため息をつくと立ったまま彼女を見下ろした。
「何でうちなんどすか?」
「あなたが優秀で、美人で・・・うちと同じ京都の子ぉやから」
 最後に静留がこちらに出てきて初めて聞く、自分以外の人間の口から出た同郷の言葉。
 しれっと二つ、生徒会活動と関係のあるとは思えない、そして静留の予想外の答えも一つ加えて笑う彼女。
「もう決めたから明日からよろしゅうね、藤乃さん」
 もはや静留は言い返すのも面倒な気分になっていた。

  ☆

 今までは取り巻きの群れに囲まれてただ場を取り繕うためだけに笑っていることが多かった静留にこれだけ強引に踏み込んでこようとする人間に出会ったのは初めてだった。
 だが今までにも稀にいた無神経な人間とは違い、なぜかそれが新鮮に感じられ、嫌悪感も感じはしなかった。
「あら、来てくれたんや?おおきに藤乃さん」
「このまま無視しとってもええんやけど、会長はん絶対諦めてくれまへんですやろ?」
「当たり前やない」
「せやから面倒なことなる前に諦めよう思て」
 ヘタに断って後々ヘンにつきまとわれるよりはマシだろう。
「賢明な判断やわ」
 それにこの奇妙な人を・・・机にヒジをつき、組んだ手の上に顎を乗せて、ニコニコと笑顔を絶やさない人を観察してみたかったという想いもあったのかもしれない。
「で?会長はんうちは何をしたらよろしいんどす?」
「せやねぇ、やる事はよぉさんあんねんけど、さて何からしようかしら」
 机に積み上げられた書類にこれみよがしな視線を送る。
「これどすか?」
「うーん、見なあかん書類なんやけど、何や見る気ぃおきへんのよねぇ」
 はぁ~っとため息をついて書類の束を掴むと無造作にバサバサと振り回す。
「見せとくんなはれ」
 静留は手渡されたその束をパラパラとめくると、素早く書類を分類分けし始めた。
「これとこれには会長はんのはんこを、これとこれには目を通してもろてよければ先生のところに提出、これは・・・」
 次々と仕事の提示をはじめる静留を呆然と見上げる彼女。
「・・・予想以上やわ」
「それはうちのセリフどす・・・会長はん今まで仕事どないしとりましたん?他にもいますやろ?副会長はんとか書記とか。何でこないに仕事が溜まっとるんどすか?」
「おらへんよ、去年はえぇ子ぉがおったんやけど転校やら卒業やら重なって今不在なんよ。
だからあんたをスカウトしたんやもん」
 そういえばそんな話を小耳に挟んだことがあるような・・・自分には関係ないことだとあまり気にも留めていなかった。
「とにかく助かった、あたし苦手なんよこんなん」
 珍しく判断ミスを犯したかもしれないと静留は思うが今更翻すわけにもいかず、ふぅっと息を吐くと腹をくくった。

  ☆

「なぁ静留」
 生活にも慣れ、生徒会の仕事にも慣れ、何人かの必要な人材を集めた頃には、彼女はすでに静留のことを名前で呼ぶようになっていた。
 忙しさにかまけて気がついた頃には年は明け、もうすぐ進級の・・・そして卒業の季節がやってくる。
「はい?」
 書類に目を通しながら顔も上げずに返事をする静留のそばに彼女は立つ。
 相変わらず細かい仕事を嫌い、のらくらと過ごす彼女の代わりを務める静留。
 こんな人でもイザという時の判断力と行動力は人一倍優れていて、それが何故か問題をよりよい方向に導いてしまう、という場面をこの1年でたくさん見てきた。
「あんたホンマえぇ女やねぇ」
「・・・はい?」
「うちの目ぇに狂いなかったわ」
「ヘンなことゆぅてんとたまには仕事しとくんなはれ、会長はん」
 顔を上げた静留の唇を、ふいに温かいものが塞いだ。
 そんな場面でも決して目を閉じようとしなかった静留から、彼女がそっと唇を離すまでに数秒・・・いや、数十秒はあったかもしれない。
「・・・妙なことしはりますなぁ」
 つとめて平静を装う静留は、何事もなかったかのようにカタンと椅子を蹴る。
「ほな、うちこれ先生んとこ出してきますさかい・・・おつかれさんどす」
 書類の束をトントンとまとめると脇に抱えた。
「静留!」
「はい?」
「また・・・明日」
「・・・ほな」
 静かに扉を開けると静留は部屋を後にした。

  ☆

 静留にとってのそれがはじめてのキスだった。
 何の感慨もない、ただ唇を合わせるというだけの行為。
 相手が自分と同じ性を持つ女だということに対しても何とも思わなかった。
 別に何か責任があるわけじゃなし・・・。
 否、もはや静留がいないと仕事が進行しないというくらいの責任はあるにはあるが、彼女の自業自得だと片付けてしまえばいいだけのこと
 このままあの部屋には二度と足を踏み入れなければいいだけだ・・・。
 だが、静留の足はいつものように翌日も部屋に向かっていた。
 カラリと開けると、彼女はすでにそこにいた。
 窓際に佇み、外をぼんやりと眺めている。
 あえて何も言わず、いつもの席に座ろうとする静留に彼女はぽつりと呟く。
 「来たんだ・・・もう来ないかと思った」
「一応仕事ですさかい・・・けぇへんでえぇんならもう来まへんけど?」
 いつものようにふわりと笑って答える静留に、彼女は今にも泣きだしそうな顔で口元を歪める。
「堪忍な、静留」
「・・・」
「あんたが好きなんよ」
「そないなことゆわれても・・・」
 静留は今までも相手は違えどそういう告白を受けたことがないわけではなかった。
 そういう時は適当に御礼を言い、笑って流して頬にキスのひとつも送ればそれで終わった話だ。
 本気になったことなど一度としてなかった。
「うちな・・・中等部卒業したら京都に帰らなあかんねんよ・・・多分もうアンタに会うこともなくなるやろう。それまでにどうしてもあんたに伝えたかった・・・無茶してもうて堪忍な」
 静留のそばに寄り添い、腰の辺りにある静留の髪を優しく撫で梳くと、そっと抱き寄せた。
「あんたはいつも笑ってなかった・・・人前でうまいこと笑ってたつもりなんやろうけどホンマの笑顔見たことなかった・・・何とかあんたの笑顔見たいと思ってそばに置いててんけど、うちやったらあかんかったみたいやね」

 ――意外だった――

 彼女がそんなことを想って自分をそばに置いていたことが。
 そして静留のことを見抜いていたという事実。
 いや、今までの彼女の仕事ぶりを見ていると観察力も抜群だということはわかっていたはずなのに、自分のことは絶対悟られていないとばかり思っていた。
 悟られない自信もあったのに・・・。
 改めて感心させられた。
「そないなことありまへん・・・」
「ん?」
 そっと静留は彼女の脇に手をついて体を離すと、ジっと見上げた。
「うちは会長はんのこと・・・結構好きどしたぇ」
「嘘や」
「そんなんも見抜けへんかってんやったら、会長はんもまだまだどすなぁ」
 不敵な笑みを浮かべて見上げる静留に惑う彼女。
 視線が泳いでいる。
 こんなに困った顔の彼女を、静留は初めて見た気がする。
「でも・・・うちは女やで?」
「せやから何どす?」
「あんたやったら男なんかよりどりみどりやろ?」
「興味ありまへんなぁ」
 正直静留は本当に興味がなかった。
 どれだけ寄ってこられても、好きだと言われてもピンと来なかったし
 異性をホンキで好きになることもなかったし、それがどんな感情なのかも実はよくわからなかった。
 自分の恋愛対象としての好みのタイプではないけれど、人間として彼女のことは尊敬していたし、キライではなかった。
 自分のことを好きだと言われ、それが今まで13年生きてきて言われた中では一番嬉しかったことも事実だった。
 ちゃんと本当の静留の姿を見抜いた上での告白だったからだ。
「会長はん・・・おおきに」
「あほぉ・・・それはうちのセリフやろ」
「そうどすか?」
「おおきに、静留」
「どういたしまして」
 ふわりと静留は本当に嬉しそうに、心の底から笑顔で答えた。
「やっと笑ろてくれたんや・・・えぇ手土産になるわ」
 彼女はそう言うと腰をかがめ、チョンっと触れるだけのキスを送る。
 それが彼女からの最後のキスになった。
 それっきり彼女が静留に向かってそういう感情を表すことは一切なかった。

  ☆

 卒業式当日、彼女は生徒の出払った生徒会室に一人佇んでいた。
「会長はん、そろそろ始まりますぇ」
「ん、今行く」
 振り返りもせず、短く答える。
 隣に並ぶと少しだけ高いところにある目を見上げる静留。
 そして胸元に視線が行く。
 ついているハズのコサージュがついていない彼女の左胸部に、静留自身のコサージュを外してつけてやりながら問う。
「どないかしはったんですか?」
「ん?あぁもうここともお別れなんやなぁて思ったらなぁ」
 コサージュをつけてくれる静留の顔から窓の外に視線を移し、中庭を眺める。
「そうどすなぁ、結局また来年もうちはここにおるやろうけど・・・」
「後は任せた、静留」
「わかっとります」
「じゃあ行くかっ」
 くるりと踵を返すとドアに向かう彼女を静留は呼び止めた。
「会長はん」
「何?・・・ん?」
 静留は振り返った瞬間の彼女の唇を塞いだ。
 かつて自分が彼女にされたように、自らの唇で・・・。
「静留?」
「手土産にしとくれやす」
「アホ・・・あんたはホンマ罪な女やわ・・・でもえぇ女や」
「えらい言われようやわぁ、うちまだいたいけな中学生やのに」
 スネたように制服のリボンをつまみ、まだ中学生だということを主張してみる。
 不意に静留の体がグラリと揺れた。
 彼女の腕の中に抱かれた静留は、されるがままに髪を優しく撫でられていた。
 栗色の柔らかな髪に唇を寄せて囁く彼女。
「静留、アンタはこれからまだ色んな人に出会うやろう、いつかホンマに本気で好きな相手も出来ると思う。そしたら・・・ちゃんとうちに紹介しぃや。あんたの相手がどんなヤツでもあんたが幸せなんやったらうちは祝福したるさかいにな」
「おおきに」

  ☆

 彼女が卒業し、静留は新しいメンバーと共に生徒会を運営しはじめ、集めた優秀な人材のおかげで静留はのらりくらりと表面上、穏やかに笑って過ごしていた。
 そんな表面しか見ていないくせに好きだと言って近づいてくる後輩を受け入れるフリをして戯れ、自分の欲を解消する術も覚えた。
 そこには相変わらず何の想いも存在はしていなかったが・・・。
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Date:2008/08/23
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