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□ 静留×なつき □

手錠2

まだまだ
 静留は講義が終わると何とはなしに高等部に足を向けた。
 



 一日会わないだけでこんなに顔が見たくなるなんて、こんなに会いたくて会いたくて心が叫びをあげるなんて・・・。
 なつき、ちゃんと来てはるんやろか?
 様子を見るだけ、会うわけやあらしまへん。
 自分自身に言い聞かせるかのように何度も何度も心の中で繰り返し呟く。
 卒業して数ヶ月、ちょくちょくなつきの様子を見に来てるので特に懐かしいという思いは感じないけれど、それでもやはりなつきと初めて言葉を交わした中庭だけは思い出深い。
 まだ6時限目の授業中なのか、人はいなかった。
 静留という人間は存在自体が目立つのか、必ずと言っていいほど誰かに見つかり、アっというまに人だかりが出来てしまう。
 慕われるのは嬉しいことだが、今日だけは勘弁して欲しい。
 なつきに見つかりたくはない。
 カラーンカラーンと授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
 あかん、人が来てしまう。
 静留はなるべく目立たないように門に向かって歩き出した。
 門を出た所で背後から聞き覚えのある・・・というか聞き間違えることなどありえない声が聞こえてきた。
「こらっ命!うっとおしいぞ!はーなーれーろー!」
 グイグイっと腕にくっついて離れない命を引き剥がそうとなつきは奮闘していた。
 静留は思わず門の影に隠れるように身を寄せた。
「舞衣がなつきにくっついてろと言うから仕方がない、わたしだって好きでなつきにくっついてるわけじゃないぞ!」
 不満そうに頬を膨らませる命。
「お前失礼だな!」
 何だか見ていて微笑ましい光景だ。
 普段静留が見ることのない表情をするなつき。
「あら命、今日はくっついてる相手が違うじゃない、こーんな胸ナシ女にくっついてても気持ちよくないんじゃないのぉ?」
 と、そんな二人の後ろから、からかうように声をかけたのは命と同じ中等部の制服を着た結城奈緒だった。
「奈緒!そうなんだ、なつきの胸は舞衣のように柔らかくないし」
 奈緒には懐いている命は嬉しそうに一瞬笑顔を広げるが、なつきの胸の話題になるとあからさまにがっかりした顔で文句を言う。
「大きなお世話だ!!!」
 額に青筋を立ててもの凄い剣幕で怒鳴るなつきの横で、奈緒があはははっと涙を流して大笑いしていた。
 そんなたわいもない光景を目にした静留はショックを受けていた。
 最早なつきにかつての一匹狼の面影は影も形も見えない。
 あの奈緒までもが心の底からの笑顔を見せている。
 すっかり馴染んでいる。
 静留がいなくても十分学園生活を楽しんでいる姿。
 最近マジメに学校に行っているのは、静留がうるさく言うせいや出席日数だけの問題じゃないのかもしれない。
「ごっめーん、なつき!命!」
 背後から命の本来抱きつくべき相手が駆けてきた。
「舞衣!おまえなー毎日こんなヤツくっつけてよく歩いてるなぁ」
「そう?慣れちゃったよね?命」
「ん!」
 嬉しそうに舞衣の腕にしがみつく命は、なつきより柔らかいという胸にすりすりと顔を摺り寄せた。
「ちょっとぉ~見てるこっちが恥ずかしいわよ!ばっかじゃない!」
 奈緒はばっかばかしい!と背中を向けるとさっさと門に向かって歩き出した。
 少しばかり動揺していたのかその場から立ち去るタイミングを逃した静留は、気がついたら門を出てきた奈緒と対面する形になってしまっていた。
「藤乃ぉ?」
 びっくりした奈緒は一瞬後ずさると、思わずかつて憎んでいたであろう相手の名前を呼んでいた。
「え?」
「へ?」
「ん?」
 残りの3人も奈緒の声に振り向いた。
「し、静留?」
 一番早く反応して駆け寄ったのはやはりなつきだった。
「あ、えっとその・・・近くまで来たからなつき、ちゃんと学校来てるかなて思て」
 取り繕うように笑顔を浮かべてそう言い訳をするが、珍しく頬が引きつるのを隠せないでいた。
「あ、うん、ちゃんと来てるぞ」
「そう、せやったらえぇねん、ほな帰りますわ」
「え?ちょ、し、静留?」
 あっという間に背中を向けて歩き去る静留の背中を、なつきは呆然と見送った。
 隣では奈緒も何だか拍子抜けしたように肩を竦めている。
「あんた何?藤乃とケンカでもしたの?」
「いや・・・」
「確かにちょっと会長さんの様子、変だったわよね」
 いつのまにか背後で同じように背中を見送る舞衣も言う。
「舞衣?」
「藤乃はいつもヘンなヤツだけどさ」
 フンっと鼻を鳴らすと憎まれ口を叩く奈緒。
 そこにはかつてのような憎しみの感情は込められていなかった。
「なつき?追わなくていいの?」
「でも・・・」
 迷いが生じているなつきの背中を舞衣はそっと押す。
「何かしたなら早めに謝った方がいいし、何かスレ違いがあったんなら早く修整した方がいいと思うよ。会長さん・・・実はそんなに強い人じゃないと思うし・・・ね?」
「舞衣・・・」
 確かにその通りかもしれない。
 静留はいつも笑っている。
 人前では気丈に振舞って決して弱みを見せようとはしない。
 何でも飄々と器用にこなす、得体の知れないヤツだ。
 ホントの静留の姿を知らない頃のわたしならば騙されていただろう・・・そうだ、そういう時のアイツの心はホントは笑ってなんかないんだ。
 ウソツキ・・・。
 静留のウソツキ・・・。
「あんたの為に自分の命を惜しげもなく差し出すような、他のヤツのことなんか眼中にないなんて言い切るようなバカなんだから。アイツが何かしでかさないうちにアンタ責任持って何とかしなさいよね」
 奈緒は、かつて自分が静留に味合わされた恐怖を思い出したのかブルっと体を震わせると、ドンっとなつきの背中を乱暴に押す。
「うん・・・わかった」
 そんな憎まれ口にもなつきは素直にうなづくと、すでに見えなくなっていた静留の背中を追って駆け出した。

  ☆

 随分早歩きだったのか、静留に追いついたのはもう寮の近くだった。
「静留!待て静留!」
「・・・」
「待てってばこらっ」
 グイっと静留の手首をつかむと強く引っ張る。
「痛っ」
「あ、ご、ごめん」
 ぱっと手を離すとすぐさま頭を下げた。
「何?」
「今日は・・・来ないのか?」
「・・・なんで?」
「何でってそれは・・・」
「うちはなつきのご飯作る人やない、お茶を入れる人やない、掃除する人でもないんよ?」
「何の話だ?」
「なんでもおまへん」
「とにかく!ちょっと来い!」
「嫌っ」
 ピシっとなつきの手が振り払われる。
 ピクっとなつきの手が動きを止めた。
 張り詰めた空気が二人を包む。
 嫌?嫌と言ったのか?
 突如、あの頃の言葉がフラッシュバックする。
 自分が静留に対して吐いた言葉。
 静留を否定するような辛辣な言葉と態度。
 何だこれは?・・・結構・・・ショックかも・・・。
 気まずい空気をごまかすように、静留はくるりと背中を向けた。
 静留の今にも泣き出しそうな瞳に頭を殴られたようなショックを受けたなつきは、それからどれくらい佇んでいたのか、気づいた時にはすでに静留の姿は消えていた。
 我に返ったのは寮に帰る途中の舞衣に声をかけられた時だった。

  ☆

「ちょ、ちょっとなつき?こんなところで何してんの?会長さんは?」
「へ?・・・あ・・・」
「・・・ダメだったの?」
「わからん・・・」
 自虐的に笑う。
「わからん?」
「何が言いたいのかわからん、どうしていいのかわからん」
 なつきはその場にしゃがみこむと膝に顔を埋めてしまった。
「なつきぃ~」

  ☆

 寮になつきを迎えると舞衣はキチンと正座をして向かい合った。
「で・・・?何があったの?」
 途方に暮れた顔でしょんぼりと肩を落とすなつき。
 どこから話していいのか自分でもよくわからないのだろう。
 必死で頭をフル回転させている様子が舞衣を辛抱強く待たせた。
「・・・こないだ」
 なつきはぽつりと、やっとのことで口を開き始めた。
「奈緒のとこに金を返しに来ただろう?その時にお前に誘われてメシを食って帰ったが、実はあの時家で静留が待っていて・・・せっかく作ってくれた夕食をわたしは食べてやれなかった。それからだと思う・・・」
 一瞬驚いたが、舞衣は大きなため息をつくとふるふると呆れたように頭を振った。
「・・・なつきのばかっ!どうしてあの時そう言わなかったのよ!そんなことわかってたら引き止めなかったわよ!それは会長さんも怒るわ」
「うん、反省してる」
「いくら好きでそばにいるだけでいいって言っても、やっぱり相手の反応が薄いと不安になるものよ?なつき、ちゃんと答えてる?好きなんでしょう?会長さんのこと」
「・・・ん」
「便利に思ってない?一人で待つのって・・・結構しんどいんだよ?」
「そんなこと思ってない!わかってる・・・一人の食卓は・・・寂しかったから」
 静留の作った料理が美味しいと感じなかったその理由も、なつきはわかっていた。
「じゃあちゃんと謝りに行きなさい」
「わかってる・・・わかってるんだが」
 先ほど浴びせられた静留の言葉が蘇る。

 ――嫌っ――

 また同じことを言われたらどうしよう?という不安がなつきを尻ごみさせていた。

  ☆

 なつきの手をこの手が振り払ってしもうた。
 一瞬自分で自分の言葉の意味が理解できへんかった。
 何であないなことゆぅてしもたんやろう?
 なつきの驚愕の表情が脳裏に刻まれる。
 あの言葉を浴びせられることがどんだけ辛くてどんだけ心が痛かったか、そんなん自分が一番わかってたはずやのに。
 静留は自ら離してしまった大切な手を取り戻せないかと、何度も何度も握り締める。
 だが、やはり掴めるものは空気だけで、決して大事なモノは返ってはこない。
「なつき・・・堪忍な」
 うっすらと浮かぶ涙を拭おうともせず、ただひたすら掌を見つめ続けていた。

  ☆

 家に帰っても静留が迎えに出てくれない生活が、どれほど続いてるのだろう。
 もう随分静留の笑顔を見ていない気がする。
 一人で過ごす部屋がこんなに広く感じるなんて思ってもみなかった。
 一人で食べる食事がこんなに味気ないものだったなんて考えてもみなかった。
 あれからやはりどこか静留に会うのが怖くて、何度もマンションの前まで行っては部屋を見上げるだけで帰ってきてしまう。
 あと一歩というところで勇気が挫けてしまう。
 人に・・・いや、静留に否定されることがこんなに辛いなんて・・・寂しいなんて・・・。
 あの時自分が吐いた言葉の痛さがわかった今、なんとしても、どんなことをしても静留に伝えなければならないのに。
 自分の本当の気持ちを。
 言わなければわからないのに。
 静留の笑顔を取り戻さないといけないのに・・・それが出来るのはわたしだけなのに。
「ちゃんと謝ろう」
 意を決したようにすっくと立ち上がると、なつきはヘルメットと鍵を手にした。
「行こう」
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Date:2008/08/23
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