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□ 美奈×レイ □

ご利益

天下の火川神社は色々効きそうだ(笑)



 
「ちょっとロンドンに行ってくるわ」 
 突然、ちょっとそこまで散歩にでも行くかのようにサラっと告げられた彼女の予定。 
 しかし告げられた行き先はちょっとそこまでどころか、海のはるか向こうだった。 
「どれくらい?」 
 レイは紅茶に砂糖を入れると、つとめて冷静に見えるようにスプーンでかき混ぜる…何度も何度も。 
「マーズ?」 
「え?」 
「あなた、甘党だったかしら?」 
 そばには空になったスティックシュガーの袋が3つ。 
 しかし美奈子がそう尋ねた時にはすでに紅茶はレイの喉をコクリと通過した後だった。 
「甘っ」 
 カチャンとソーサーにカップを置いて口元を押さえてうめくレイを見た美奈子が楽しげに笑う。 
  クスクス 
 悔しいけれどその笑顔に心を奪われている自分。 
 数ヶ月後には見れなくなってしまうかもしれない笑顔。 
 全国のファンも、同じ使命を持った仲間さえも知らない、残酷な事実。 
 ナゼかあたしだけに告げられた事実。 
 一体この人は何を考えているのだろう? 
 どうしてそんなに笑えるのだろう? 
 あたしは、笑えない。 
「何、何?マーズ、もしかして動揺してるの?あ、ひょっとして寂しいとか?」 
 美奈子は指を空中でくるくる回すと、チョンっとレイの鼻の頭をつついた。 
 笑顔はいつものイタズラっ子のような笑いに変わっていた。 
「べっ、べっつに!!あなたがドコに行こうが知ったこっちゃないわよ!」 
 思わずムキになって声を荒げてしまう。 
 クスクス 
 あ、また・・・。  
 レイの視線はその笑顔に釘付けになる。  
「ん?何?あぁ、どれくらいって?そうねぇあさってから1ヶ月くらいかな?」 
「そんなに?」 
「寂しい?」 
 もう一度同じ質問が繰り返される。 
 彼女の視線がまっすぐあたしを捕らえて離さない。 
 呼吸を忘れる。 
 瞬きを忘れる。 
 動くことの全てを忘れる。 
「ねぇ?マーズ?」 
 その声に突如としてフリーズの魔法が解けた。 
 おとぎ話でよくあるパターン、かけられた魔法はかけた者にしか解けないという・・・納得。
 彼女の声は魔法だ。 
「マーズ!!!」 
「え?あ?何?」 
 はぁ~っと美奈子がため息をつく。 
「もういい」 
 そう言うと美奈子はプイっと立ち上がり、テーブルの上に置かれた伝票を手にとる。 
「帰る」 
「え?ちょ、待ってよお金・・・!」 
「オゴったげるわよ、一応これでも半分社会人だし」 
 背中を向けたまま伝票をヒラヒラさせるとレジに向かう。 
「いいわよ、自分の分くらい払うわ!」 
 レイは美奈子の手首をつかむ。 
 細い手首。 
 折れそうな・・・。 
 振りかえった美奈子の表情が一瞬ゆがむ。 
 再びあたしにかけられたフリーズ魔法。 
「じゃぁね、レ・イ・ちゃん」 
 腕を振り解かれる。 
 その瞬間2人の間に一枚の薄い薄いガラスが挟まった。 
 今、初めて名前で呼ばれたということにも、レイは気づかなかった。 
「美奈・・・」 
 そして、初めて口にした彼女の名前は、すでに美奈子には届かなかった。 
 
  ☆ 

 翌日、レイは巫女の姿で境内を掃除していた。 
 前々から祖父がこの日に出かけるのは決まっていたので、一日一人で留守番だった。 
 こんなこと・・・してていいのかしら、あたし・・・。 
 脳裏によぎるのは、美奈子の寂しそうな、悲しそうな、苦しそうなあの最後の表情だった。 
 色んな感情が入り混じってて読めない。 
 自分は結構他人の気持ちとかには敏感な方だと思っていたが、彼女だけはナゼだかよくわからない。 
 心が見えない。 
 考え事を続けながら、絵馬の奉納場所の掃除にかかる。 
「ん?」 
 見たことのあるキャラクターの絵。 
 自分にもよーく馴染みのある、カウボーイハットをかぶった青い…馬なんだかなんだかよくわからない妙な・・・馬? 
「ナコナコ?」 
 レイはクスっと笑うとソレを手に取って裏返す。 
 誰だろう?何をおねがいしてるのかしら?という純粋な疑問から。 
 そして驚く。 
「ヴィーナス?」  
 まさかその妙なキャラの産みの親本人のモノだとは思わなかった。 
 主の名は、愛野美奈子。 
 まだ新しい、少なくともここ1日2日の間にかけられたと思われる絵馬。 
 そこには恋愛成就がウリの火川神社に、あまり似つかわしくない言葉が書かれていた。
 
「待ってて  愛野美奈子」 

 伝言板じゃないんだから、たくぅ。 
 レイはソレを外すと、たもとにしまう。 
「ん?」 
 
  ☆ 
 
 夜、祖父が帰るとレイは私服に着替えて家を抜け出した。 
 以外に近所にあることが最近判明した彼女の実家へ向かう。 
 いるかわからない、電話をかけてから行けばよかったと後悔しながらも足が逸る。 
 レイが息を切らしながら家の前に着いた時、丁度家の前に黒塗りの高級車が止まるところだった。
 後部座席から降りたのは美奈子だった。 
 走り去る車を見送る。 
「ヴィ、ヴィーナス!」 
 全身で呼吸を整えながら、思わず呼んでしまう。 
 ピクっと肩を震わせると、美奈子がゆっくり振りかえる。 
「マーズ?」 
 まっすぐレイを見つめる。 
 あ、まただ。 
 でも今度は負けたくない。 
 レイも真っ直ぐ見つめ返す。 
「コレ何よ?うちの神社は伝言板じゃないのよ?」 
 ナコナコの絵馬を突き出す。 
「あら、もう見つかっちゃったの?早かったわね。あたしがいなくなってから見てほしかったのに」 
「たまたまね、大体うちは恋愛成就の神様なんだけど?」 
「――見つけたのはそれだけ?」 
「え?」 
 ニヤリと勝ち誇ったように笑う美奈子。 
「まだまだね、マーズ」 
 レイはゴソゴソとポケットからもう一枚の絵馬を差し出す。 
「コレのこと?こういうことはねぇ、素直に自分の口で言ってよね」 
 レイの顔が走ってきたせいもあってか、上気していた。 
 美奈子の顔からいつもの笑みがサっと消えた。 
「見つかってたんだ」 
「まぁね、夕べ来たの?」 
「そうよ、あなたがあんまりにも鈍感だから」 
 鈍感?そんなこと、言われたのは産まれて初めてだ。 
「悪かったわね!鈍感で!あたしがわからないのはあなたのことだけよ!」 
 あたしの言葉に驚く彼女。 
 シマッタと口を押さえたが、出てしまった言葉は取り消すことは出来なかった。 
 そして次の瞬間、彼女に再びいつものアノ笑顔が戻ってきた。 
 ニヤリ 
 あ、ヤバイ・・・この顔・・・。 
 ――金縛りに合ったあたしの脳裏に『時すでに遅し』――そんな言葉がよぎった。 
  一瞬で美奈子の顔が超至近距離にツメよってくる。 
「美、・・んんっ」 
 名前さえも呼ばせてもらえなかった。 
 柔らかな感触。 
 冷たい唇。 
 自然に反応するあたしの体。 
 目を閉じる。 
 全身でこの人を感じる。 
 永遠に続くと思われるキス。
 そして、全身の力と心のチカラが一気に抜けた。 
「やっぱり鈍感。あたしの行動、読めなかった?」 
 美奈子はレイの腰をしっかり抱き寄せると、支えながらからかう。 
「・・・ってちょっ、重い、マーズ」 
 レイの体がしなだれかかるのをしっかりと美奈子は受けとめる。 
「失礼・・・ね」 
「コレって敏感なのかしら?」 
 クスクスっ 
 ぼんやりと彼女の無邪気な笑顔を見つめる。 
 この笑顔を一ヶ月も見れない、ううん、ヘタしたらこのまま・・・。 
 今の彼女には一ヶ月という時間さえ貴重なハズだ。 
 その貴重な一ヶ月を共に過ごせないのが、レイには悔しくて、寂しくて・・・。 
 なのにこの人は、相変わらず憎らしい笑顔であたしのことを見つめる。 
「マーズ?」 
 魔法が解ける。 
 我に返ったレイは思わず美奈子の腕からスルリと逃げ出してしまう。 
 不吉な想いを振り払うように、レイは俯いて頭を振る。 
 大丈夫、大丈夫・・・ダイジョウブ・・・。 
 呪文のように何度も何度もつぶやく。 
 
  ☆ 
 
「ヴィーナス」 
「ん?」 
「この絵馬に誓って!必ず・・・帰るって」 
「もう誓ってるじゃない」 
「あたしの目の前で誓って!あなたの言葉で!・・・じゃないと、待てない!」 
「マーズ」 
「ヴィーナス!」 
 切羽詰ったレイの勢いに押された美奈子は、フっと優しい・・・いつものイタズラっ子のような笑顔ではない笑顔で微笑むと、レイの絵馬を握る手をふわっと包み込む。 
 レイの手が一瞬震える。 
「誓うわ、必ず帰るから、だからもう泣かないで、おねがい」 
「えっ?」 
 レイは驚いて、そして初めて自分が涙を流していることに気付いた。 
「どうしていつもいつもあなたが泣くのよ…意外と泣き虫ね、マーズ」 
 美奈子はそう言うとレイの額に自分の額をコツンと軽くぶつける。 
 そして呟く。 
「アタシだって・・・寂しいんだからね」 
 あぁ、そうか。 
 時々見せた何か言いたそうな表情は、コレを伝えたかったんだわ。 
 そうよね、14歳の女の子が背負うには過酷な運命だもの。 
 苦しまなかったわけ、ないよね。 
 レイは涙を拭うと美奈子の服のスソを引っ張る。 
「仕方ないわね、毎日電話・・・してきてもいいわよ。半分社会人なんだから国際電話代くらい楽勝でしょ」 
「え?」 
「あたし、夜は遅いし朝は早く起きる習慣だから」 
 プッと思わず美奈子が吹き出す。 
 そしてレイの背中に手を回すと抱きしめて、やさしく背中をポンポンと叩く。 
「そうね、アタシがいないからって、浮気されたらたまんないものね」 
 ニヤリと笑うともう一度唇を奪う。 
 今度はレイも敏感に察知し、受け止め、感じた。 
 
  ☆ 
 
 長い長いキスの後―― 
「それは・・・あなた次第でしょ」 
 顔を上気させて精一杯強がる。 
「大丈夫よ」 
 妙に自信ありげな彼女。 
「何が?」 
 いぶかしげに尋ねる。 
「だってあなた、アタシのこと好きだもの」  
 ニッコリ笑うと人差し指であたしの額を軽く押す。 
「うっ」 
 ホントにこの人には叶わない。 
 何もかも見透かされてる気がする。 
 でもそれは事実。 
 あたしの負け。 
 こんな絵馬もらっちゃったら・・ね。 
 
  ☆ 

「レイが寂しい想いをしませんように  愛野美奈子」 
 
 さすが、天下の火川神社―――ご利益あるじゃない。 
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Date:2008/08/30
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